CLOSE

MAGAZINE

HOME > MAGAZINE > Interview > 心の病に対して、社会はどう向き合うべきか? 作業療法士×ラッパー「慎 the spilit」が届けるメッセージ -前半
ヒト2021.03.11

心の病に対して、社会はどう向き合うべきか? 作業療法士×ラッパー「慎 the spilit」が届けるメッセージ -前半

心の病をもった人がそばにいた時、みなさんはどのような印象を受けますか?

事故や失恋、入学や仕事での失敗、身内の死……。心の病は様々なことがきっかけで誰にでもなり得えます。

一方それは、隠すべきものとして社会の中で見えない存在になっているのかもしれません。自分や自分の大切な人にも起こり得る身近な病気だと知っていたら、心の病がある人を誤解せずに接することができ、お互いに助け合える社会が実現するのではないでしょうか。

今回お話を伺った慎 the spilitさんは、作業療法士とラッパーとして2つの側面から、社会が心の病に対してどう向き合うべきかを問います。


慎 the spilit(シンザスピリット)

1988年生まれ32歳。滋賀県出身、在住。

同い年で構成される88POSSE、医療福祉介護&当事者レーベル EMPOWERMENT RECORDS所属。

滋賀県で精神科作業療法士(リハビリテーション)をしながらRAPPERとして音楽活動(HIPHOP)をおこなっており、3児のパパでもある。


作業療法士になって気づいた社会の誤解

一生涯でうつ病になるのは5.7%(約17人に1人)(出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構)、統合失調症の有病者は約100人に1人(参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)と言われています。数値で見ると、決して珍しい病気ではありません。身近な病気であるのにもかかわらず、病気になった時にどうするべきかを教わる機会がほとんどないように感じます。

リハビリテーションの世界には、言語聴覚士、理学療法士と作業療法士の3つのスペシャリストがいます。言語聴覚士は嚥下機能や言語に関する支援を行います。使っていなかった筋肉を回復させる、肘の上げ下げなど機能的な部分や筋力アップをサポートする方が理学療法士。そして、作業療法士は「歩いた先に何がしたいのか」ということを一緒に考える立場を担います。

慎 the spilitさんは20代前半の頃にキックボクシングでプロを目指していたそうです。どのような経緯で作業療法士の道に進んだのでしょうか。

作業療法士として働く慎 the spilitさん

慎 the spilitさん

“キックボクシングの試合中に6時間の手術をするほどの大きな怪我をしてしまいプロの道を断念せざるを得なくなりました。一か月半ほど入院した病院で看護師さんに医療職を勧められことやスポーツが好きだったこともあり、リハビリ職に興味を持ちました。そしてリハビリテーションの専門学校に辿り着きました。当初は作業療法士と理学療法士の違いすらわかっていませんでしたが、リハビリの実習に行った時に心の病を持った方が考えることや過去に経験した苦しみに関心を持ち、作業療法士の道に進むことにしました。”

「うつ病」について社会で認知され始めたのは今から約10年前。慎 the spilitさんが専門学校に通い、心の病を持つ方と関わり始めた頃でした。実習をしている病院で、一人でブツブツと話していたり、妄想を言っている人を見た時は、少し理解に苦しむということもあったそうです。しかし、当事者の方を深く知るにつれて自身に気持ちの変化が起こりはじめました。

慎 the spilitさん

“病気の勉強をしながら、この人がこれまでどのような歴史を辿って来たのか、どのような病で苦しんでいるのか、辛いことや楽しかったことは何かを知っていくと、今も昔も、全く「変な人」ではありませんでした。とても繊細で、周囲に理解してもらいづらいところがあり、生きづらさがあるが故に苦しんでいる人が沢山いるのだなと感じました。「知らなかっただけだった」と気づいたのです。”

当事者の方々と関わる以前は、まとめて「心の病をもっている人は何を考えているかわからない」と思っていたそうですが、人々の背景に触れることで、当事者への認識を改めるようになったそうです。

「人と人」として関わる

慎 the spilitさんは、心の病を持つ人が生きづらさを感じる原因の一つに、世間の「無理解」や「無知」があると指摘します。うつ病や統合失調症、認知症の方は、事実をカミングアウトしづらい世の中や、理解されない社会に、生きづらさを感じているそうです。

慎 the spilitさん

“無知の背景には、「自分はならないのではないか」といった他人事、「甘えではないか」、「病は気から」のような根性論も根強いと思います。当事者の方々は、「治療者と患者」ではなく「人と人」という関係を求めていました。医療従事者の方々が「支援」という関わり方をする時、「心の病ばかり見られているような感じがする」と言うのです。

病気の治療はもちろん重要ですが、その人がどう感じているのか、何に対して楽しみを抱くのか、どんな人生を歩んできたのか、を教えてほしいという姿勢で関わっています。”

慎 the spilitさんは当事者の方を深く知るために面談では幼稚園や小学校の頃までさかのぼって本人やご家族の方にお話を伺ったり、人生史を一緒に作ることもあるそうです。「病気」だけでなくその人の歩んだ人生を振り返り、背景に着目されています。

慎 the spilitさん

その人が生きていて楽しいことは何かに視点を向けるのが作業療法士です。 この時、「その人」というのが重要。苦しかったり、楽しかったりすることは日々の中の積み重ねです。過去にどのようなことがあったのか、どういう影響からこのようなことが辛くて、逆に楽しいのかを知らないといけません。

さまざまな人のさまざまな考えがあって、「生きている意味」と言ったらオーバーかもしれませんが、何をしている時が楽しいのか、究極には何が今できなかったら辛いのかに視点を当てます。”

歌を歌う、旅行をする、スポーツをする、家族と食事をする……。誰にとっても、ないと人生を楽しめない何かがあるのではないでしょうか。

慎 the spilitさんは人それぞれ違う「生きる意味」について一人ひとりと丁寧に向き合い、患者さんがその人らしく生きていけるようにサポートをされています。

ここまでの前半部では慎 the spilitさんが精神科の作業療法士になるまでのストーリーや現場での気づきに触れました。後半部では、ラッパーとしての慎 the spilitさんの音楽活動についてご紹介したいと思います。

© Central Uni Co., Ltd. All Rights Reserved.