ヘルスケア・デザイン業界が集まるコンファレンス『HCD Expo & Conference』は、30 年前にスタートし、今年は会場のニューオリンズ・コンベンションセンターに4000人の参加者が集まりました。コンファレンスでは、ヘルスケア・デザインを多角的な視点から捉える160のセッションが開かれ、また展示会場には数100の出展者が家具やインテリア素材、ヘルス関連製品を発表し、活況を呈していました。 HCDで毎年恒例になっているのが、授賞式です。優れたプロジェクトや業界の発展に貢献した人物、イノベーティブな製品に賞が授与されます。さまざまな視点からヘルスケア・デザインに取り組んだプロジェクトが見られ、また最近のトレンドがうかがえるという点で、これらの賞は大変意味があるものと言えます。
HCD2019の会期中にも、2つの授賞式が行われました。1つは同コンファレンスを主催するHCD誌によるもの、もう1つは共催者で、業界のプロフェッショナル組織であるセンター・フォア・ヘルス・デザイン(CHD)が授与するものです。
HCD誌では4つの賞を設けており、初日のランチョンの場で表彰式が行われました。中でも「デザイン・ショーケース」はデザイン・コンペのような性質を持ち、ヘルスケア・デザイン業界で最も名誉ある賞とされています。17人の審査員が、提出された何10件ものプロジェクトの中から選びます。
今年、功労賞を受賞したのは、「アナ・ショー小児施設」(ESa設計)と「ニューヨーク・プレスバテリアン・デビッド・コッチ・センター」(Ballinger、HOK、Pei Cobb Freed & Partners設計)でした。
「アナ・ショー小児施設」は、現在必要性が高まっている子供向けの行動保健関連施設で、ツリーハウスのようなコンセプトで作られています。樹木のしかけだけではなく、随所に素材や色にまでこだわったケアのための細やかなデザインが施されている点が評価されました。また後者は、手術を受ける患者のための術前・術後スペースにおける配慮や、病院運営のための効率的な流れを実現している点が注目されました。
審査員は、今年提出された応募プロジェクトの特徴を、小児用施設への注目と、内部と外部が連続して自然が感じられる空間づくりであったとしています。ユニークなのは「リモデル/リノベーション・コンペティション」の賞です。新築されるプロジェクトだけでなく、古い建物を工夫を凝らして改築することで空間の質を向上させたり、予算は小さくてもリソースを最大化させたりした事例などが選ばれます。小児科部門と低予算部門に分かれ、小児科部門で今年金賞を受賞したのは、「ダラス小児医療センター」(Perkins and Will設計)、低予算部門では「アドボケート・オーロラ・ヘルス・ルーサレン総合病院脳神経ICU」(CannonDesign設計)でした。
HCD誌の賞には他にも、活動が注目される10人を選ぶ「HCD 10 」や個人賞や将来を託すことができる若手に与えられる「ライジング・スター」賞がありました。一方CHDの賞には、優れたプロジェクトに与えられる「ヘルスケア環境賞」、イノベーティブな製品に与えられる「ナイチンゲール賞」、確実なエビデンス・ベースのリサーチの上に作られたプロジェクトに与えられる「タッチストーン賞」、そして個人に授与される「生涯功労賞」と「チェンジメーカー賞」があります。そのうち、ヘルスケア環境賞で金賞を受けたのは、動線やサンルームの配置が評価された「メイヨー・デスティネーション医療棟」(Perkins and Will設計)、「プロメディカ・ジェネレーションズ・オブ・タワー」(HKS設計)などです。
生涯功労賞では、ランドスケープ・デザインにおいてヒーリング(癒し)を統合するアプローチを説いたクレアー・パーカー・マーカスさん(カリフォルニア大学バークレ校名誉教授)の長い功績が称えられました。また、サウス・カロライナ州のクレムソン大学で教鞭をとり、建築とヘルス学部から多くの才能を輩出してきたデヴィッド・アリソンさんに「チェンジメーカー賞」が授与されました。 アリソンさんはその後、ヘルスケア・デザインに関わることになった自分の軌跡を振り返り、「学生時代に学際的なチームで、エビデンスを共同リサーチするような教育を受けたのが、今に続いている」と述べました。それは、スタイルを追うのではなく、実質的なことを見出してデザインする方法だと言います。HCD2019で行われた2つの授賞式。それはまさに、改めてヘルスケア・デザインの層の厚さを感じさせる時間でした。