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モノ2024.04.19

スタッフステーションに隣接した「記録スペース」はICU看護師の行動変容に影響を与えるのか?

ICU(集中治療室) 重篤な患者さんを治療する特殊病棟。フィールドワークの舞台となる湘南鎌倉総合病院では、26名のICU看護師が昼夜問わずの集中治療にあたっています。集中治療部の神尾部長は、2023年度の改修計画の機会に「看護師の働き方や行動変容への影響」を調査することを推奨。看護師にとって働きやすい環境を明らかにすべく、研究デザインから調査実施までの範囲をHCD-HUBで伴走させて頂きました。

対象 集中治療部看護師 26名

期間 2023年 8月 ~ 2024年 2月

取組 湘南鎌倉総合病院 集中治療部

PROCESS

ICUを改修する以前、集中治療部内には働き方に関する2つの課題がありました。

1.記録作業をしている看護師がいると、他のスタッフから様々な要件について話しかけられ、業務が進まないことが頻繁にあった。同じく、夜勤就業前後のスタッフがステーションに居ると、患者家族や医師が声をかけてしまうため、勤務時間外に対応せざるを得ない状況になり、残業させてしまうことがあった。

2.夜勤就業前後のスタッフがスタッフステーション内で記録作業を行う際、和気あいあいとした雰囲気で会話をする場面がある。双方向的なコミュニケーションを行う有意義な時間である一方、会話の声が大きくなり、患者へ不快感を与える恐れがあった。

これらの課題に向き合うためには、記録業務とその他業務を分けられるレイアウトの必要性が挙げられました。そこで、スタッフステーションに隣接させた「記録スペース」を介入物として、改修前後の変化を比較することに。調査前の仮説を以下のように立てました。

スタッフステーション内に「記録スペース」を導入し、日夜勤の働く場所を(適度な距離に)分離することで、

1.下記 a.と b.により、看護師が安心して記録作業に打ち込める

   a. 勤務時間外に声をかけられるストレスから解放される

   b. 誰かに見られているような不快感から解放される

2.患者や家族へスタッフステーションの雑談が聞こえなくなる

竣工からおよそ1か月後、完成した記録スペースの一角にカメラ「Wi-Fiスマホ見守りカメラ🄬(HAC2399A)」を設置し、3日間にわたる日夜勤の看護師の行動を観察。観察期間中は専用スマホアプリ「YCC365Plus🄬」を連動させて使用しました。

改修前の事前ヒアリングによって、記録スペースが最も使われる時間帯が夜勤明けのAM8:00~10:00であることが明らかになりました。

2日目のAM9:30~10:00の映像から、夜勤看護師2名で話をする様子や、複数名の夜勤看護師が集まって会話をする様子、あるいは各々がPCに向かって作業をする様子が確認されました。

観察調査の後には、看護師26名を対象にアンケート調査を実施しました。

問1の「業務後の記録作業中、声をかけられる回数は記録室の導入前後で変化しましたか?」という質問に対して、声をかけられる回数が「減った」と答えた人はおよそ1/3であったのに対して、半数以上は「変化なし」と回答。「減った」に多かった回数として、記録スペースの導入前は5~7回だったのが、導入後には1~2回という回答でした。

問2の「声をかけられるストレスについて、記録室の導入前後で変化しましたか?」という質問に対しては、23%が「変化あり」と答えたのに対して、およそ3倍の65%が「変化なし」と回答。うち1名は「そもそも声をかけられることにストレスを感じない」と記述しました。「変化あり」の回答者が具体的にそう感じる時は、例えば「勤務が終了しても医師に頼まれて業務が増えることがあったが、それがなくなった」という意見などでした。

問3の「記録室内で看護師同士はどんな会話をしているのでしょうか?」の質問に対して、73%は会話があると回答。業務の振り返り、とくに患者さんに関する事柄がほとんどでしたが、日常会話も発生しているそうです。会話内容について最も多かった比率が「業務8:プライベート2」(4名)でした。他に「業務7:プライベート3」も。対して、プライベートの方が割合が高い回答も2件ありました。

問4の「業務後の記録作業中、見られているような不快感が記録室の導入前後で変化しましたか?」の質問に、半数が「変化あり」と回答。話しかけられたくない時に、意図的に記録スペースを選んで使用する人が居た一方、「半個室になっているのでコミュニケーションがしやすい」「プライベートも交えて話せる」という意見もありました。

問5の「業務後の懇談中、患者様やご家族へ声が聞こえてしまうことがなくなりましたか?」の質問は、半数が「減った」と回答しました。

観察調査とアンケート調査は、仮説が有効であったことを証明する結果となりました。

スタッフステーション内に「記録スペース」を導入し、日夜勤の働く場所を(適度な距離に)分離することで、

1.下記 a.と b.により、看護師が安心して記録作業に打ち込める

   a. 1/3程度の職員が勤務時間外に声をかけられるストレスから解放される

   b. 半数程度の職員が誰かに見られているような不快感から解放される

2.患者や家族へスタッフステーションの雑談が凡そ聞こえなくなった

調査を終えて全体を振り返ると、改修前後で明らかな変化を感じている意見ばかりではないものの、一方では「記録スペースなんてなくてもよい」といった否定的な意見も聞かれませんでした。指導や談笑の場面が見受けられるなど、使い勝手の広がる部屋として、今後の期待ができそうです。

また、記録スペースのPCがデスクトップではなくノート仕様であり、一部の職員からは「起動の遅延が気になる職員が滞在しないため、部屋の使用頻度に影響している可能性がある」との声が上がりました。記録スペース内の設備の充足度が、職員様の滞在時間や頻度に影響を与えていたようです。

“どこに・何を” 置いて、 “どんな時に・どのように” 使われるのかを設計段階から具体的に想定した上で、必要な延べ床面積を割り出す。今回のフィールドワークを通じて、この作業こそ本来の理想的なアプローチであることを学びました。

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