平均寿命の延伸と共に認知症患者の増加がみられるようになった昨今、首都圏の特定機能病院の外来において、検査室や診察室、相談室などを往来する複雑なフローや、医療者からの説明に対する理解に苦渋している人は少なくありません。高齢者や認知症であればなおさらのこと。特に病名の告知場面では短時間に受け止め、理解し、意思決定をしなくてはなりませんが、十分なサポートが出来ていない現状です。
そこで、HCD-HUBは同院の患者支援部とともに、外来患者のフローに合わせた感情の変化を捉え、安心して受診し、意思決定ができるサポートを検討することにしました。
PROCESS
患者の感情変化に基づいたPFMの課題を考察するにあたり、ペルソナおよびペイシェント・ジャーニーマップを作成しました。
⑴ まず、具体的な患者像を想定するべく、軽度認知障害をもつ82歳女性のペルソナを作成。入院のきっかけは自転車の転倒事故によるしびれの継続とし、疾病(診断名)はDPC6群に分類される「脊椎管狭窄症」としました。その他に、既往歴、価値観や人生観、家庭環境や生活形態および社会的立場などを定めました。
⑵ 次に、Excel上にペイシェント・ジャーニーマップを表しました。横軸に「時系列」、縦軸には「ステージ」、「患者行動」、「(職員や媒体との)接点」、「意思決定(の有無)」、「どう感じたか」の行(項目)を備え、計3回にわたる来院の1日の流れを記載しました。
⑶ 患者行動ごとの感情を、0を基調とした7段階に振り分け、点と点を線で結び、感情の起伏を時系列にプロットし、感情曲線に表しました。
⑷ 感情曲線を基に、ポジティブやネガティブとなる要因を明らかにし、安心して受診できる外来機能を検討しました。
Results
患者の感情曲線には、以下の傾向があることが明らかになりました。
⑴ 患者をお待たせする機会が多く、時間も長い。
⑵ 患者の移動回数が多く、総歩行距離も長い。
⑶ 診療科目にとって予約方法が異なる運用が、よりペイシェントフローを複雑にしている。
⑷ 病院に来てはじめて手術・入院の必要性を告知されると、頭の中が整理されない状態のまま工程が進んでしまう。( 紹介状にはかかりつけ医師の所見が記載されるが、患者の想いや提供した。情報は医師によって異なり、属人化されている。)
⑸ 医師との意思疎通で生じてしまったネガティブな感情や認識の違いを患者支援センターで受け止める。終日通して常に低迷していたが、入院前看護師面談で気持ちに寄り添ってもらい安心したため、唯一ポジティブ(+1)な感情になった。
Consideration
今回のペイシェント・ジャーニーマップでは、特定機能病院が関わる範囲だけではなく、 実際の患者が「自宅を出る → 外来で診察・検査・説明等を受ける → 帰宅する」までの 一連の流れを可視化し、具体的な患者経験に基づく感情変化を推測しました。 全体を俯瞰することで、「何時間もかけて来て、病院でさらに待たされる。より一層疲れるだろう。」や「きっと帰宅後にご家族との話合いをする必要があるだろう。」等と、 患者の気持ちや背景を深く洞察する機会となり、医療従事者にとっての学びにつながりました。
また、患者支援センターには、患者と医師との関係性悪化防止(信頼関係の再構築)を果たす役割があり、 傾聴することの重要性を再確認できました。
一方、ペイシェント・ジャーニーマップ上には解決すべき課題が残りました。
A. 予約および待ち時間について
a-1. 予約専用アプリケーションなどを用いて、予約方法を統一する。
a-2. 予約時間の枠を細かく設定し、混雑を緩和させる。
a-3. 待ち時間を利用して看護師と会話をできるよう、専任の看護師を配置する。
B. 意思決定支援について
b-1. 保険外サービス等(意思決定サポーター)を専任として同行してもらう仕組みを構築する。
C. 地域連携について
c-1. 大学病院とクリニック(かかりつけ医師)の間で、患者にお伝えする情報をすり合わせられる仕組みを構築する。
c-2. ひとつの事例として、基幹病院が主催する地域連携に関する会議等にて具体的に議論し、仕組みに落とし込む。
さいごに
ペイシェント・ジャーニーマップを用いた外来機能の課題改善にあたり、院内外の医療連携を深めることが重要であることが分かりました。今後は、特定機能病院側の体制だけではなく、かかりつけ医師も巻き込むことで、課題を共通に認識すると同時に、地域包括ケアシステムの推進に寄与できる可能性があるのではないでしょうか。