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コト2021.04.08

医療者が街に出ていく時代? 守本陽一さんが考えるコミュニティとケアの新たな関係性とは。 – 前半

皆さんには、将来わが身に起こり得る病気や健康管理のこと、あるいは診察室では話し切れなかったことを気軽に相談できる相手がいるでしょうか。

近年、医師が薬を処方する代わりに孤独やストレスを抱える人にとって居場所となるコミュニティ(社会資源)を処方する「社会的処方」が注目されています。院内では完結しきれない退院後のフォローや未病の知識啓蒙など、コミュニティに地域医療を求めるニーズが増えているのです。

今回は、「YATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)」や「だいかい文庫」など、ケアと街づくりに関する取り組みを推進する総合診療医の守本さんへ、コミュニケーションの仕掛けによってどのようにケアを届けることができるのか、お話を伺ってみました。


守本陽一(もりもと よういち)

一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事

公立豊岡病院組合立出石医療センター総合診療科医員

1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。新・家庭医療専攻医。学生時代から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立し、代表理事に就任。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、シェア型図書館、本と暮らしのあるところだいかい文庫などをオープンし、運営している。YATAI CAFEでソトノバアワード2019審査員特別賞、兵庫県人間サイズのまちづくり賞知事賞受賞。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート」など。


小規模多機能な公共空間「YATAI CAFE」

守本さんは2016年から「YATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)」(以下、YATAI CAFE)という活動を兵庫県豊岡市で行っています。これは医師や看護師が屋台を引いて街を歩き、物々交換でコーヒーを配る活動。

一体なぜ、このような活動を始められたのでしょうか。

守本さん

“学生時代から、有志を20人ほど募って地域診断を行っていました。その時、豊岡市には救急車を我慢して呼ばない人が多いことが分かりました。そこで医療教室を開き、どんな時に救急車を呼ぶべきなのかお伝えすることに。地元の新聞社をはじめ色々な人が広報してくださったのですが、なんと、参加者は一人だけでした。そういった啓蒙の場に来る方は、既に健康か、ヘルスケアに対して意識の高い人が多いのです。では、そうでない人にこそ届けるためにはどうすればよいのだろう、と考えました。

当時、プライマリケアで有名だった東京大学(当時)の孫大輔先生とその時大学院生だった密山要用先生が屋台で街中に出て行く活動をされていました。研究目的で行われていましたが、地域の人たちと交流する場として有効ではないかと、豊岡市でも始めることにしました。

屋台には色々な機能が備わっています。健康相談はもちろん、ご近所さんと井戸端会議ができる小さな公園のような所にもなり得えます。この前はコーヒーをもらっていた人が、今度は自分が入れてみようと、役割を持ち始めることもあります。「小規模多機能な公共空間」と捉えています。”

月に一度開催されるこの活動。参加する医療者は、尋ねられない限りあえて職業を言いません。

「屋台の店員さんが実は医者だった」というように、日常生活の延長線上に医療者との接点を生む仕掛けは、医療と生活の分断された関係を再定義するために効果的だったのです。

本を起点とした中距離コミュニケーション

しかし守本さんは活動を続ける中で、両者がコミュニケーションを育むためには関係性を継続させる工夫が必要だと気が付きます。

守本さん

“共著で「ケアとまちづくり、ときどきアート」を執筆させて頂いた西智弘先生という先生がいます。西先生が「出ていくだけ」や「イベントを行うだけ」ではなくて、そこにあり続ける場も必要なのではないかとおっしゃっていました。屋台は街に出たり、イベントを行ったりもするのですが、「そこにあり続ける」ことはありません。毎回遊びに来くださる人もいるのですが、4年間で1、2か月分にしかなりません。そこで、ずっと開けられる場所として「だいかい文庫」を作りました。

2020年12月、豊岡市にオープンしたシェア型の図書館、「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」(以下、だいかい文庫)は、本棚の一箱を月々2400円で持てるという仕組みで、自分の好きな本を置いて、街に暮らす人に貸すことができます。

守本さん

“若者向けのクラブイベントやマルシェなど、豊岡市にも地域の取り組みがありますが、そういったコミュニティはコミュニケーションが得意な人が集まる場ではないでしょうか。フラッと入ってきて自分のペースで店員さんと少し話せるような、無理のない関係性を築きたいと思いました。沢山お話する人もいれば、ザーッと本を読んで出ていく方もいますし、フラッと来ただけだったのにリピートされる方もいらっしゃいます。

高円寺にある銭湯「小杉湯」の平松さんが銭湯は中距離コミュニケーションの場であるとおっしゃっています。本屋さんや図書館も同じような会話を強制されないもののそこにいけば誰かがいるような場になっています。だいかい文庫での中距離コミュニケーションからケアにつながっていくと良いと感じています。

オープンから約4カ月、本を軸に来店される客層は様々。リタイア後の高齢者の方が毎日本棚を変えに来る様子を、守本さんたちは暖かく見守ります。

守本さん

“YATAI CAFEやだいかい文庫の活動が直接的に死亡率を下げることはありませんが、こういった地域の場があることで「病院に行ってみよう」と思うきっかけができたり、そこから医療従事者とのコミュニケーションが始まる可能性に期待できると思います。”

コーヒーや本から生まれた縁が、いつのまにかケアに繋がる。

守本さんは、健康相談の場を設けるのではなく、そこに集う人々が「自然と健康になれる場」のデザインをされていました。

前半では、YATAI CAFEやだいかい文庫が目指すコミュニケーションの在り方について触れました。後半は、医療者と地域の人にもたらされるWell-beingと、守本さんの今後の展望についてご紹介します。

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