情報の伝達を効果的に上げるには、どうすればよいのか? ——
1日あたり平均2,700名の外来患者が来院するA大学病院には、地下1階~4階で構成される外来診療棟の各階に掲示板が設置されていました。その掲示版には種類の異なる情報が混在し、用紙や文字のサイズ統制はとれておらず、外来患者の目線より高い位置に(用紙が)貼られるケースが多く見受けられました。「患者同士のピアサポート」「がん相談支援センター」「緑内障の早期発見」「発達障害児のペアレントトレーニング」etc… 特定の人にとっては重要と思われる情報がいくつもありますが、実際に足を止めて掲示物を見る人の姿はほとんどありません。そこでA大学病院では外来掲示を見直し、より患者の期待する「情報発信の場」とするべく院内掲示改善プロジェクトを開始しました。HCD-HUBでは、その活動中に協働で行った外来患者へのヒアリング調査で得た情報を参考にしながら、≪伝わりやすい≫ポスターのフォーマット例を検討しましたのでここにご紹介したいと思います。
対象 外来患者及び同伴者(疾病・診療科目の特定なし)
期間 2022年7月~2023年1月(COVID-19の影響もあり一時的に活動を中止した期間も含まれます。)
取組 A大学病院 経営戦略課経営戦略実現室、接遇向上センター
PROCESS
01.掲示物をカテゴライズし、種類ごとの情報量を可視化する
まずは掲示板上にどのような情報が掲示されているのかを可視化(整理)する必要があります。外来診療棟の1階と2階の掲示板を対象に確認していくと、情報は下記の8種類にカテゴライズできることが分かりました。
① 理念系・権利系(例:A大学病院の理念)、② 募金案内(例:難病支援の寄付)、③ 注意喚起・マナー喚起(例:落し物への注意、左側通行)、④ 治療案内・疾患に関する情報(例:喫煙に伴うリスクの啓発)、⑤ 窓口案内・院内の支援サービス(例:コンシェルジュサービス、がん相談支援センター)、⑥ 制度案内(例:診療報酬の改定)、⑦ 教室・イベント系(例:演奏会のポスター)、⑧ アンケート・その他
掲示物の量は、④と⑤にカテゴライズされるものが多くありました。
02.院内掲示物に関するインタビュー調査の実施
次に、掲示物の情報が実際に患者へ届いているのか確認するため、外来患者の声を聞いてみることに。5問の質問事項に口頭で答えて頂き、インタビュアーが量的・質的に書き取る「構造化インタビュー」の形式をとりました。某日、外来診療棟玄関前に立ち、診療を終えて玄関から出た外来患者へランダムに声をかけ、最終的に31名の方にご協力を頂きました。性別の
内訳は、男性が13名、女性が18名。年齢層別の内訳は、20~50代が10名、60代が12名、70代が9名でした。当日使用したアンケートフォームは下記です。
インタビュアーは掲示板の写真と(その掲示板の場所を示した)マップを見せながらインタビューを進行します。改めて写真を見ると、色や文字の目立つ掲示物を「記憶に残る」(問1・2)と回答する人が多かった一方、実際の掲示板は(前を通りかかったが)「気がつかなかった」と答える人が大多数でした。「知りたいと思う情報」(問3・4)については、自分自身あるいは家族が罹患している場合は、「その疾患に関する専門的な情報」と答える人が最も多かったです。同時に、「疾患と付き合う上でかかる費用や支援制度などの社会資源」と答える人も一定数。「知らないと困る/損をする」と感じる情報は優先度が高くなるようです。しかし回答の中には、「医師の人となりを知りたい」(30代男性)や「(ヨガなど)余白的な活動も、治療とは別の社会貢献活動であり、もっと病院を活用したいと感じる」(20代女性)、「コンサートや教室系の新しい企画がないかと病院に来るたびにチェックしている」(60代女性)といった声もありました。
03.≪目に留まりやすく・伝わりやすい≫情報掲示物のカタチを考える
インタビュー調査の結果、そもそも掲示板の前であまり足を止められていないこと、そして多くの外来患者が優先的に知りたいのは、「疾患に関する専門的な情報」と「治療にかかる費用や支援制度」であることが分かりました。まず、掲示板を素通りせずに立ち止まってもらうためには、掲示板全体がすっきりと整頓されている必要があります。そこで、A大学病院の経営戦略実現室が企画・立案して、目に留まりやすく・伝わりやすい掲示物するための、フォントやサイズ・色調を統制した、余白部分の多い掲示物レイアウトのフォーマットを作成しました。疾患や支援制度に関する情報は、1枚の中で全てを伝えようとすれば膨大な文字数になります。しかし、小さな文字でびっしりと書かれた掲示物を「読みたい」と感じる人はほとんどいないはず。掲示物には必要最低限度の情報しか書けないように制約をかけ、続きを外部リンクで読めるようにするなど、≪伝わる≫工夫をするのです。
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