前半ではコーヒーや本を通じて、偶然に出会うケアの在り方についてご紹介しました。こちらの後半では、医療者と地域の人、双方にもたらされるWell-beingの効果を考えていきたいと思います。
YATAI CAFEやだいかい文庫が提案するコミュニケーションが、人と人との新しい繋がりを生むことがあります。その繋がりに、ありのままの自分を受け入れてくれる居場所を見出す人がいました。
守本さん
“少し病気をして学校に馴染めず辞めてしまった子が、「YATAI CAFEなら行きたい」と、来てくれていました。古民家再生プロジェクトに関わる方がちょうどその時来ていたのですが、「一緒に音楽をやろう」とその子を誘ってくれました。そのように地域の中で自分の居場所を持ち始めることは非常に良いと思います。YATAI CAFEがきっかけで地域の中で居場所を作るのはまさしく「社会的処方」らしいことです。”
守本さんは活動を続けていく中で、医療と全く異なる分野の人と出会う機会が増えたそうです。他職種間の偶発的な交わりが、ケアをする側にも居場所を見出し変化するきっかけになりました。
守本さん
“その地域に医療関係者が残るのは、やはりそこにいる地域の人が好きということだと思います。数年間の間に色々な役割を持った人と出会い、助けてもらったり、助けたりしていくうちに地域に対する愛着も湧いてきて、周りにいる人も残っていくことが増えていったような気がします。
YATAI CAFEには、6、7人くらいメンバーがいます。そのメンバーも基本的にはみんなお金をもらって活動しているわけではないため、その人自身が楽しむことが4年以上続いたコツではないか、と思います。私自身、最初のうちは「地域の課題を解決しなくては」と、義務感もありましたが、徐々に目の前の一人の変化を見届けることにやりがいを感じてきました。そして、医師としても患者さんの心理社会的な背景やご家族との関係性等に目を向けようと意識するようになりました。
やはりこのコロナ禍でも、日本の医療従事者はみんな非常に頑張っていると思います。もちろん使命感があると思うのですが、それだけでドライブするのはがむしゃらに突き進んでいくことに成りかねません。患者さんと向き合いながら、自分も救われていく場が大事なのではないでしょうか。”
人が人と触れ合い、互いにストーリーを共有することで、私たちは無意識に視野を広げることができるのではないでしょうか。
医療者や患者(生活者)が多様につながる場は、近年アートの領域にも波及しています。「アートの街」として活性する豊岡市では、ツアーパフォーマンス(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)にYATAI CAFEが出展する機会もありました。
守本さん
“医療従事者は見つけた課題を解決する意識が高い傾向にあると感じます。一方、アート関係の人は、どちらかというと探索的にやってみて何が得られるのか、何を感じられるのかを考えます。「YATAI CAFEで何の課題を解決しているのですか」と言われると、具体的に明言しづらい部分があります。しかし、一度実践的にやってみると、「意外と地域の居場所になっている」「地域のハブをつないでいる」「健康相談の場になっている」と、後から気付いてくることが多いです。アートだけでなく、街づくりに携わる人がコラボレーションしながら小さい場を作っていくと、新しい価値が生まれる気がします。”
多くの人が孤独やストレスを抱えるコロナ禍の今、コミュニケーションの在り方が問われています。
他者との距離ができて初めて、日常の中に自然に存在していたはずの繋がりが、言葉では説明しきれない安心感を保っていたことに気づかざるを得ません。
私たちはそれぞれ、関係性の築き方や距離を縮めるペースが異なり、変化もします。しかし、ケアこそ誰にとってもアクセスしやすい平等性が担保されるべき。
医療を「仕掛ける」創造性が、病気と付き合いながら生きていくこれからの時代に求められるのではないでしょうか。